ルパン三世PART6第10話「ダーウィンの鳥」感想
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第10話感想
二度目の押井守脚本回。
前半半分はミハイルなる男による盗みのターゲットとなるモノの説明、後半は不二子とルパンによるミッション、ちゅう流れ。
本作品がミステリーをテーマにしてることも相まってまーたミステリアスな脚本を書いてきよって。
おかげでこちらは解読が必要になったわな。
視聴者によっては前回の押井守回に引き続き「ひとりよがり」と評したくなるのではなかろうか。
最初は置いてけぼりにされるからね。
でも個人的にはこういうミステリアスな脚本もあっていいと思うんだけどな。
いや、いまのルパンは基本、あのメンバーが全員いようがいなかろうがなんでも描けるから。
さて、ミステリアスな回にはミステリアスな登場人物をって感じで一番ミステリアスな不二子を主役にチョイスするのはもはやルパン歴長い人にとってはもはや見慣れた光景。
不二子に盗んでほしかったのは始祖鳥の化石と見せかけて実は…ってそんなオチ。
ミカエルとルシファーってのはそれぞれ大天使ミカエルと堕天使ルシファーのこと、このへんは名前だけはある程度知っていたのですぐにピンときた。
ミカエル、ミハイル、マイケル…全部スペルはMichaelじゃないか、つまりは言語による読み方の違いになるわけなんだが、その由来は大天使ミカエルだ。
ちなみにこの二人の天使は双子であり、かつて天使の中でも最高位にいたルシファーが神に不満を持ったことで反旗を翻しミカエルら天使と戦争を起こした結果ルシファーは敗走し地獄で堕天使となった、と旧約聖書に描かれている。
ちょこっと調べたけれど、最後に出てきた天使(今回はルシファーの名がつけられた)の化石、あれは押井守が企画段階で没になってしまった劇場版ルパン三世で描こうとしていた虚構の象徴だった。
幻の劇場版ルパン三世は1985年に企画されたものなので、35年経ってようーーーーーやくそのときに描きたかったことが日の目を見たことになるのね。
つまりはミハイルなる男にはじまりタイミングよく発見された始祖鳥の化石でもってしてのダーウィンの進化論、ルパン、峰不二子が博物館で体験したこと、今回描写されたこれらすべてが虚構、虚実なのかそれとも現実なのかを視聴者に問わせているってことなのか。
虚構の存在として取り上げられていた進化論への疑問や全ての生物は神様がお作りになったものと創生論の教えを説くのはキリスト教やその派生宗教、ユダヤ教、イスラム教あたりなんだけれども無宗教の日本人にとっては全くをもって馴染みがないことだからなあ。
始祖鳥の化石を見て不思議な体験をしたことでミハイルの依頼を断った不二子が出した結論が「無信心のわたしたちにとって、神を盗むのは荷が重い」なのは日本人の大半が特定の宗教を信心してるわけではないために進化論を否定するストーリーが誰からも理解されずに企画段階でお蔵入りになったことに対する押井守の言葉を代弁したものでもあるだろう。
やはり日本人が作るルパンには盗めないものも存在するのだ。
だからその天使の化石に悪魔に堕ちた天使の名前を冠するあたりがやはり押井守節なんだよな。
押井守とプロデューサーの間でも劇場版をめぐる戦いが起きて押井守が堕天使の側に堕ちてしまったってやりとりがかつてあったのが連想されてくるよ。
とはいえこのエピソードを初見で全て理解できた人、押井守ファンのなかでもわずか数%しかいないのではなかろうか。
宗教の教えを取り入れているのはフィクション作品ではよく散見されるが今回の場合はかなり難解な方。
調べるまでは会話に出てきたピルトダウン人とは20世紀初頭に捏造されて考古学を大混乱させた化石人類のことであると知らなかったしな。
そんな虚構の化石人類の名も出してくることでこのストーリーの虚実と現実の曖昧さをよりいっそう高めているのね。
あと、ルシファーは明けの明星(金星)も意味してるので夜明け=東の方角に金星の惑星記号をモチーフにした仕掛けを施したのも小洒落てて好印象。
前半を丸々使って説明がなされたダーウィンの進化論に対する疑問、証拠として扱われることもある生物の進化の過程を示す始祖鳥の化石は捏造だったのではないか、のような常識を疑った発想は現代の日本においては必須の発想ではなかろうか。
昭和だけでなく、平成の常識や価値観でさえも令和の時代においては過去のものとして否定されはじめてきてるからね。
だから昭和の時代であれば否定されたこのエピソードが令和になって形を変えて日の目を見たことについても大きな意味があるわけで。
ストーリー的には難解ではあるが、このエピソードだけはなんべんでも見たくなるね。
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